エンジニアと学ぶハイブリッドカー(HEV)の仕組み

みなさんはハイブリッドカー(以下HEVとします)についてどれほどご存じですか?

なんとなく環境にやさしい車というイメージをお持ちの方も多いとは思います

しかし、実際の仕組みについてはあまりご存じないのではないでしょうか

本記事では大学院で自動車の研究をしていた私が、HEVの仕組みや強みについてわかりやすく説明します

ぜひ最後まで読んでいただき、車の奥深さ、洗練された技術を感じてみてください

ハイブリッドカーの基礎

まず、従来の車とHEVの違いで最も大きいのは動力源がエンジンとモータの二種類存在していることです

エンジンとモータでは消費するエネルギー源が違うのはもちろんのこと、出力の特性や効率が良い運転ポイントも全く異なります

ではなぜこれらを組み合わせる必要があるのかというと、互いの苦手な領域を補い合って効率の良いエネルギーの使い方ができるからです

ただこれだけを聞いてもなかなかわかりにくいと思われますので、単純化のために純エンジン車(ICEV)とEVを比較することでそれぞれの特徴を掴んでいきましょう

ICEVの特徴

ICEVはガソリン、もしくは軽油を主なエネルギー源として燃焼によるエネルギーを回転運動として取り出して走行しています

今回は話をシンプルにするために4ストロークのポート噴射ガソリンエンジンに話を絞って特徴を説明していきます

ガソリンエンジンはガソリンの燃焼から動力を取り出すので、動作に空気(厳密には酸素)を必要とします

そのためエアインテークやマフラー等の吸気や排気のための部品を持ちます

吸気された空気はインテークマニホールドにてインジェクターから噴射されたガソリンと混合され混合気となり、シリンダー内に導入されます (吸気過程)

シリンダー内でピストンによって圧縮された混合器はスパークプラグによって点火され一気に燃焼が進み、シリンダー内の圧力が上昇します(燃焼過程)

高い圧力によってピストンが押し下げられ、タイヤが回る原動力となります(膨張過程)

その後慣性によってピストンがもう一度上がってくることでシリンダー内の燃焼後の空気が排気されます(排気過程)

以上4つの過程を繰り返しながらICEVは推進力を生みだしていきますが、ICEVには様々な特徴があります

まずエネルギー源に燃料を用いています

これにはメリットがあり、例えばエネルギー源を補給したいのであればガソリンスタンドで数分も入れればタンクは満タンになります

また低負荷での巡航においてエネルギー効率が高いです、これは一般道よりも高速の方が燃費が良くなることからも実感しやすいのではないでしょうか

逆に発進時などの低速で高負荷な条件においては燃費が非常に悪くなってしまいます、特に停車時は燃費にとって最悪です

なのでメーカーはアイドリングストップ機構などを導入して停車時の燃料消費を抑えようとするのです

ここまでの特徴をまとめると

ICEVは

  • 高速巡行で燃費がいい
  • 給油を手早く済ますことができる
  • 低速高負荷が苦手

ということになります

EVの特徴

EVはパワートレインとしてモータを持ち、モータに電流を流すことで回転運動を取り出して推進力にしています

こちらも話をシンプルにするために3相交流モータを動力として持つEVを例にして考えてみます

EVはモータが電磁力によって回転することを利用しています

電気は急速充電器などから電池に蓄えられ、必要な時に直流電流が電池から取り出されます

三相交流モータでは直流電流によって駆動させることはできないためインバーターと呼ばれる素子によって、交流電流へと変換します

実際には交流電流ではなくパルス状に電流値を操作することによって疑似的な交流を生み出すPWM制御を用いることで三相交流モータは駆動されます

電池から電流を取り出してモータを回すというシンプルなシステムのため、部品が非常に少ないことが特徴です

また減速時に車の速度を電気エネルギーに変換する回生を行うことができます

この回生の効果は非常に大きく、従来は摩擦エネルギーとして捨てていたものを回収できるのでシステムのエネルギー効率の大幅な上昇につながります

すべての指示が電流や電圧などで行われるため非常に応答が早いです

車速0からいきなり全開トルクを出すことが可能で、これは低回転からトルクが盛り上がっていくエンジンとは大きな違いになります

また低速におけるエネルギー効率が非常に高く、ストップアンドゴーが多い市街地走行において有利です

一方でモータは高速道路の高速巡行のような高回転高負荷を非常に苦手としています

これはモータが高速回転するにつれてモータの回転によって逆起電力が生じ、抵抗が非常に大きくなってしまうからです

以上のことをまとめるとEVの特徴としては

  • 部品が少なく構造がシンプル
  • 低速でエネルギー効率がよい
  • 高回転高負荷が苦手

ということになります

ハイブリッドカーのコンセプト

ようやくハイブリッドカーの話に帰ってきましたね

勘のいい人は気づいているかもですが、ハイブリッドカーのコンセプトはエンジン、モータの苦手なところを補いあうことです

エンジンが苦手な低速ではエンジンを止め、モータ主体で走行する

モータが苦手な高速巡行ではエンジンを使うことで総合的なエネルギー効率をよくする

ガソリンがエネルギー源の主体であるため給油も早い

という風にいいところが上手くマッチしていますよね

あとは電池容量が大きくて充電器に接続できるPHEVというのも出てきています

ただこの方式にもデメリットはあって、HEVではモータ、エンジンに加えてエンジンの出力で発電を行うジェネレータという第二のモータがついています

そのため想像がつくかと思いますがHEVは部品点数が非常に多くなり、また電池を積むため重量も増加傾向になります

様々な要素を詰め込むため車両の価格も高く設定され、未だにICEVが健在である大きな要因となっています

しかしながらそれでもHEVは年々普及が進んでおり、今後も普及率は伸びていくと予想されます

温室効果ガスの低減にもつながる重要な運輸セクターの電動化のカギを握るHEVの動向に注目です

まとめ

ここまで長い文章の読破、お疲れ様でした

この記事を読むことで、HEVの基礎について少しでも知って頂きほかの方に説明できるような知識がついていれば幸いです

このほかにもたくさん車関係の記事を書いていますのでよろしければご一読よろしくお願いします